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Vol.22

ロケットエンジン開発の難題「燃焼振動」に
実機スケールシミュレーションで挑む

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)
研究開発部門 第三研究ユニット
主任研究開発員

芳賀はが 臣紀たかのり さん

研究者紹介

日本の次世代大型基幹ロケット「H3」。そのエンジンの開発は2014年から進められてきました。燃焼試験と並んで、エンジンの開発に重要な役割を果たしてきたのがシミュレーションです。なかでも芳賀さんは、スーパーコンピュータ「富岳」を用いてエンジンの燃焼器の実機スケールのシミュレーションを成功させ、エンジンの損傷を招く恐れもある「燃焼振動」という現象のメカニズム解明に道を開く成果を挙げました。より安全でより高性能なロケットの開発への貢献が期待されます。

課題代表者
京都大学大学院
工学研究科機械理工学専攻
教授

黒瀬 良一

本記事に寄せて

燃焼は、さまざまなエネルギー変換装置や推進装置をはじめ、多くの工業装置で利用されている。従って、このような装置の開発、最適設計、及び運転条件の選定を効率的に進めるうえで、燃焼のメカニズムを明らかにし、その挙動の正確な予測と制御を行うことは極めて重要である。近年、このような目標を達成するうえで、期間とコストの削減の観点から、数値シミュレーションの利用は必須である。燃焼の数値シミュレーションとは、対象とする系に対して、流れの連続の式、運動方程式、エネルギー方程式、化学種保存方程式、及び状態方程式を連立してコンピュータで解く手法である。しかし、燃焼を対象とした場合、解くべき化学種保存方程式の数が多いこと、また燃焼現象の時間的・空間的スケールが乱流よりも小さいことから、その計算負荷は燃焼を考慮しない場合に比べて極めて高くなる。

燃焼に関する研究の中で、燃焼振動の予測と制御が最もチャレンジングなテーマであることは議論を俟たない。燃焼振動は、逆火、燃焼器壁面の損傷、及び燃焼騒音の主要因となりうる厄介な現象である。本課題代表者(黒瀬)は、このような燃焼振動の予測などの数値解析技術の高度化を目指して、2011年に「燃焼・ガス化数値解析技術の高度化に関する研究会」を立ち上げた。また、2018年には、それを理化学研究所の中に「燃焼システム用次世代CAEコンソーシアム」として置き、現在、産業会員13機関、大学・国立研究機関等会員13機関の会員で活動を続けている。

本課題は、実機液体ロケットエンジン燃焼器内乱流燃焼場の燃焼振動特性を超大規模解析によって予測することを目指したものである。ロケットエンジン燃焼器は圧力が極めて高いため燃焼現象の時間的・空間的スケールが非常に小さくなり、かつ超臨界状態と亜臨界状態が混在する状態になるため理想気体近似が使えない。そのため、通常の燃焼の数値シミュレーションよりも実施がより困難となる。この問題を解決するためには、燃焼モデルや流れ解法のより一層の高精度化・高速化・安定化に加えて、コンピュータ性能の向上が欠かせない。本成果は、これらの問題が今一応の解決を見てようやく得られたものである。ただ、これでも結果を得るまでに「富岳」で1ヵ月はかかっている。エンジニアリング的には1ケースを長くても1、2日で終えたい。そう考えると、燃焼の数値シミュレーションはまだまだ道半ばであり、さらなる高速化と高精度化を目指す必要がある。今はやりのAIの利用がその野心的な目標の達成に寄与する可能性が期待されているが、果たしてそうなるであろうか?ロケット開発においては、さまざまな理由から失敗が許容されにくい我が国にとって、バーチャル空間上でトライ&エラーや失敗経験を積み重ねられる意義は特に大きい。このような数値シミュレーションの高度化は、ロケット開発のあり方を大きく変えるゲームチェンジャーに成りうると考えられる。

本記事の取材を受けるのは本来、課題代表者が担うものらしいが、対象はロケットという技術的・安全保障的にセンシティブなものであることから、具体的な紹介と説明はJAXAに所属する課題副代表者の芳賀臣紀氏に委ねたい。

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ロケットエンジンの中では何が起こっているのか What Happens inside a Rocket Engine?

H3は宇宙航空研究開発機構(JAXA)が民間企業とともに開発中のロケットです。全長は63mで、20階建てのビルの高さに相当します。この巨大なロケットが飛び立つための推力を生み出すのが、LE-9エンジン(以下、LE-9)という液体燃料エンジンです。芳賀さんが今回シミュレーションの対象としたのは、このLE-9の技術実証のために2005年から約10年間にわたり研究、開発されたLE-Xエンジン(以下、LE-X)の燃焼器です図1

図1H3ロケットと、芳賀さんがシミュレーションした燃焼器の関係

H3-30S(固体ロケットブースターを搭載しないH3ロケットの最小形態)には、LE-9が3基搭載されている。LE-Xは、世界初の大推力エキスパンダブリードエンジンであるLE-9の技術実証用に開発され、燃焼試験に用いられた。芳賀さんは、この燃焼試験のデータを基に、燃焼器のシミュレーションに取り組んでいる。噴射器はやや太い鉛筆ぐらいのサイズ(長さは3通り)で、実際には500本以上ある (図3も参照)。LOXドームの「LOX」は液体酸素(Liquid Oxygen)の略。
H3-30S (https://www.rocket.jaxa.jp/rocket/h3/outline.html#01)、LE-Xエンジン(https://stage.tksc.jaxa.jp/jedi/event/pdf/JEDISymposium2011/20111124/[1-3].pdf) の画像は宇宙航空研究開発機構、LE-9エンジンの画像はMHI提供。 燃焼器の模式図は、三菱重工技報 Vol.53 No.4 (2016) pp.37-43にあるLE-9エンジン燃焼器の模式図を、許可を得て改変。

「LE-Xの燃焼器には、燃料である液体水素が気化したガスと、液体酸素がそれぞれターボポンプで送り込まれます。噴射器は同軸になっていて、中心部から液体酸素、その周囲からガス水素が噴射され、両者が速度差で混ざったところに火炎ができ、成長していきます図2。 液体酸素は約100K(-173℃)ですが、各噴射器の先端から形成される火炎の温度は約3300K(約3000℃)にもなり、燃焼室の下の方に向かうにつれて化学反応が進んで燃焼ガス(水 ※1燃焼ガスは非常に高温・高圧のため、この場合の水は(H2O)液体ではなく気体の水蒸気になっている。 や解離した化学種からなる)が増えていきます。この燃焼ガスがノズル(燃焼器のくびれから下)で加速されて噴射され、ロケットの推力を生み出すのです」(芳賀さん、以下同)。

図2燃焼室の中で起こる反応

この図は、燃焼室の中で起こっていることをイメージしやすいように、芳賀さんのシミュレーション(詳細は後述)の結果を可視化したもの。密度が高いところを青色にして、噴射器から出た液体酸素の流れを示している。この図ではガス水素は示していないが、火炎は、水素と酸素が混じったところ(液体酸素流の表面近く)で発生し、燃焼室の下(この図では右)のほうに広がっていく。この図では水素と酸素の混合分率が化学量論比に近いところ(反応が過不足なく進み、火炎が激しいところ)をオレンジ、やや外れたところ(火炎がやや弱いところ)を黄色で示すことで、火炎の様子を示している。

燃焼室の中では燃焼振動という現象が起こることがあります。「燃焼振動は火炎と音(圧力の変動)がお互いを強め合う現象です。火炎が揺れることで音波が発生します。音波が燃焼室の壁で反射されて戻り、火炎を揺らすとさらに音波が発生します。この相互作用が強まると、音は大きくなり、火炎は激しく振動します。安定した燃焼時の燃焼室内は100気圧ほどですが、燃焼振動が起こると圧力変動の最大値はその2倍になることもあり、エンジンの損傷につながることもあります」。このため、ロケットエンジンの開発では、燃焼振動をいかに抑えるかが重要な課題となっています。しかし、エンジンの設計変更などの対策をするたびに燃焼試験を行うと、時間もコストもかかってしまいます。そこで芳賀さんは、燃焼室内の流体(燃焼ガスと推進剤)の高精度シミュレーションによって燃焼振動を再現し、燃焼振動を抑えるのに役立てたいと考えているのです。

流体シミュレーションに燃焼反応と気体の状態方程式を取り込む Incorporating Combustion Reactions and the Equation of State of Gas into Fluid Simulations

シミュレーションに使用したソフトウェアは、芳賀さんが所属する第三研究ユニットが「富岳」を使う前から開発してきた「LS-FLOW-HO」です。その開発にはずいぶん苦労したと芳賀さんは振り返ります。燃焼室内の流体のシミュレーションを行うには、流体の運動の方程式を解くだけでなく、燃焼反応に伴うさまざまな変化を方程式にして、それらもいっしょに解かなければいけないからです。

まず流体の運動の解き方から説明しましょう。燃焼室内の流体は、水などとは異なり圧縮されることで密度が大きく変化する性質をもっています。このような圧縮性流体の運動において、流れの速度や温度、圧力などの値を求めるには、運動量保存則、質量保存則、エネルギー保存則の方程式を解く必要があります。燃焼室内の流れは大小さまざまな大きさの渦が現れる「乱流」であり、乱流のシミュレーションによく用いられるのが、LES(Large-Eddy Simulation) ※2格子セルのサイズよりも大きな渦は直接計算し、格子セルのサイズよりも小さな渦をモデル化する手法。 という手法で、計算する領域を細かな格子に区切って計算を行います。

燃焼器の中の流体にこの手法を適用するため、芳賀さんは課題参加者の一人である菱友システムズの伊藤浩之さんの協力を得て燃焼器の計算モデルをつくりました図3。 燃焼器の構造は複雑なため、LOXドーム、噴射器、燃焼室を別々に格子化し、オーバーセット格子法 ※3個別に作成した複数の格子を合体させて計算する方法。複雑な形状や部品が多い場合に有効。格子が重なる部分のセルを削除しないと正しい答えが得られないが、削除しすぎると空間に隙間ができてしまうので、過不足なく格子境界をトリミングする前処理が必要となる。 という方法でつなぎ合わせました。個々の格子セルは非構造六面体で、その数は約3億8000万、計算点は格子セル1個につき8個あるので30億以上という莫大な数になりました。

図3シミュレーションに用いた計算モデル

噴射器は500本以上あり、同心円状に12列並んでいる。長さが3種類あり、中心に近いほうが短い(噴射器グリッド1が一番短く、2、3の順に長くなる)。燃焼室の格子は、不要な部分をくり抜いて格子セルの数を削減している。

芳賀さんが一番苦労したのは、この流体計算に燃焼反応をどのように取り込むかです。燃焼器内は100気圧と高圧な上に、燃焼反応でさまざまな化学種ができ、その分布は時間的にも空間的にもどんどん変化していきます。流体の運動を精度よく計算するには、LESの計算にこの状況を反映させなければなりません。

「この問題を解決するために、課題代表者の黒瀬先生と協業しました。具体的には、Flamelet(火炎片)法と呼ばれる燃焼モデルを導入し、その『Flameletテーブル』の作成もしていただきました。これは、水素と酸素が混ざったところで燃える『拡散火炎』について、事前にたくさん条件を変えて化学種の分布を計算し、テーブル化したものです。LES計算の際にこのテーブルから個々の計算点に、水素と酸素の混合分率と、水 ※1燃焼ガスは非常に高温・高圧のため、この場合の水は(H2O)液体ではなく気体の水蒸気になっている。 の質量分率(反応の進行度の指標)の2つのパラメータを取り込むことで、流れの中の燃焼状態を表現することができました」。

こうして求めた化学種の組成と密度、エネルギーから、温度・圧力を求めるには気体の状態方程式を使います。液体酸素は100気圧のもとで噴射されると超臨界 ※4物質が液体と気体の両方の性質をもつ状態。物質が臨界点(物質によって決まる温度と圧力)を超えた温度と圧力になったときに現れる。 状態になり気体として扱うことができますが、高密度のため理想気体とは程遠く、実在気体の状態方程式を使う必要があります。「実在気体の状態方程式は複雑で、化学種の組成で決まる係数を含んでいます。計算点ごとに化学種の組成は異なるため、ここでもFlameletテーブルの情報を取り込む必要があり、黒瀬先生に助けていただきました」。

こうして、実機スケールで燃焼器内の流体のLES計算を行う準備がようやく整いました。

燃焼器形状の数mmの違いが燃焼を安定化させる Differences of Just a Few Millimeters in Combustor Shape Stabilize Combustion

芳賀さんは2024年度と2025年度の産業課題で「富岳」を使い、LS-FLOW-HOによるシミュレーションを行いました。 「最初は、計算を始めてしばらく経つと大きな圧力変動が起きて計算が不安定化してしまったため、計算初期の圧力変動を人工的に減衰させる『吸収スポンジ』という手法を使って安定化させました動画1」。

(a)
(b)
(c)
(d)

動画1燃焼器内の物性変化のシミュレーション

(a)は密度、(b)は流れの速度、(c)は圧力、(d)は温度。実時間で約4msにわたる変化を示している。計算を人工的に安定化させた後、大きな圧力変動が発生する前の安定した燃焼状態を観察した。 図2もこのシミュレーションのスナップショットである(可視化の方法は異なる)。 燃焼試験では燃焼室内の圧力・温度を限られた数のセンサーでしか測定できないため、500本以上ある噴射器でつくられる火炎の形や変動の様子はシミュレーションで初めて可視化することができた。 動画1動画2の大規模データの可視化、動画作成にはIn-Situ可視化ソフトウェアKombyneを使用した。「可視化環境の構築には理化学研究所の野中のなか 丈士じょるじさんにご協力を頂きました」。

「2025年度は、吸収スポンジで安定化した状態を初期条件とし、吸収スポンジを取り除いて計算しました。この計算では15ms以上にわたって安定な燃焼状態を保つことができましたが、さらに計算を進めると、噴射面のすぐ下で『回転圧力波』が発生し動画2、その後、計算が不安定になってしまいました。噴射条件を変えるなど3通りの条件で計算しましたが、どれも同じような結果でした」。

動画2シミュレーションで発生した回転圧力波

この円は噴射面(図1参照)の10mm下の燃焼室の断面。圧力波が壁面に沿って回転しながら発達する様子が分かる。

動画2で現れた燃焼器の断面内を回転する回転圧力波は、燃焼振動のさまざまなモードのうちの1つと考えられ、シミュレーションで燃焼振動を再現できたように見えます。しかし、燃焼試験では、このモードの燃焼振動は発生しませんでした。この違いの原因として芳賀さんが着目したのは、音響レゾネータ図4です。 「実際の燃焼器には燃焼振動を抑えるために音響レゾネータという部品が付加されているのですが、計算モデルでは省略していました。そこで、音響レゾネータを加えた場合は燃焼が安定化し、加えない場合は不安定化すると予想して計算モデルを修正し、計算してみました。ところが、予想に反してどちらも回転圧力波は発生しませんでした。 その理由として、どちらの場合も、音響レゾネータと燃焼器のつなぎ目の『溝(キャビティ)』を今回新たに加えていたので、その溝が燃焼の安定化に寄与しているのではないかと考えています」。

図4新たに加えた音響レゾネータ

音響レゾネータは中空の箱のようなもので、噴射面の外周をぐるりと取り巻いている。音響レゾネータと燃焼器の接続部分は、燃焼器の壁が外に数mm突き出し、円周状の溝になっている。この図はシミュレーション用に作成した計算モデルの形状を表しており、実機とは形状が異なる。

独自の計算スキームで高精度シミュレーションを目指す Achieving High-Precision Simulation through a Unique Computational Scheme

燃焼振動の再現という目標はまだ達成されていないものの、ロケットエンジン燃焼器の実機スケールでのシミュレーションはおそらく世界初の快挙です。「1つの条件の計算を行うのに、「富岳」の数千ノードを1ヵ月使わせていただきました。今回のシミュレーションは「富岳」がなければ実現できない規模のものでした」と、芳賀さんは振り返ります。

今後はどのように研究を展開していくのでしょうか。「2年間の成果をもとに、燃焼試験の燃焼振動の再現と、音響レゾネータの効果の再現にトライしたいです。燃焼振動の予測が可能になれば、実機燃焼試験前の最終チェックに活用できると期待しています。また、LS-FLOW-HO では、私が長年研究してきたFlux Reconstruction(FR)法という独自の計算スキームを使っています。このスキームは並列化に適しており、少ない格子セル数で高精度化が図れるのも魅力ですが、まだ計算が十分に安定化せず、高精度化は道半ばです。このスキームを完成させることも将来の目標です」。

芳賀さんは「富岳NEXT」の利用も視野に入れており、GPU上でLS-FLOW-HOを使う計算も試みています。また、シミュレーションで得られる膨大なデータから意味のある情報を引き出すビッグデータ解析にも、東京理科大学の後藤田浩さんのグループとともに取り組んでいます。芳賀さんの挑戦は、とどまるところを知らないようです。

燃焼ガスは非常に高温・高圧のため、この場合の水は(H2O)液体ではなく気体の水蒸気になっている。 本文

格子セルのサイズよりも大きな渦は直接計算し、格子セルのサイズよりも小さな渦をモデル化する手法。 本文

個別に作成した複数の格子を合体させて計算する方法。複雑な形状や部品が多い場合に有効。格子が重なる部分のセルを削除しないと正しい答えが得られないが、削除しすぎると空間に隙間ができてしまうので、過不足なく格子境界をトリミングする前処理が必要となる。 本文

物質が液体と気体の両方の性質をもつ状態。物質が臨界点(物質によって決まる温度と圧力)を超えた温度と圧力になったときに現れる。 本文

研究課題名: 実機液体ロケットエンジン燃焼器内乱流燃焼場の超大規模解析:燃焼振動メカニズムの検討(hp240016)
実機液体ロケットエンジン燃焼器内乱流燃焼場の超大規模解析:ビッグデータ解析とAI解析による燃焼振動予測の試み(hp250023)
課題代表者:京都大学 黒瀬良一
副代表者:宇宙航空研究開発機構 芳賀臣紀

研究者紹介

宇宙航空研究開発機構 研究開発部門 第三研究ユニット 主任研究開発員 芳賀 臣紀 さん

芳賀さんは航空宇宙工学専攻の出身です。大学3年生の授業である計算スキームの論文を読み、自分でプログラムを組んだところ論文と同じ結果が出て、「これはおもしろい!とはまってしまいました」といいます。博士号取得後、アメリカのアイオワ州立大学に行き、FR法を開発した研究者(Prof. Z.J. Wang)のもとでポスドクを3年間経験しました。帰国後に現在の職場に誘われ、以来17年以上、FR法の研究を続けています。研究のモットーは、論文に書かれていることを鵜呑みにせず、自分で試してみること。考えられるすべての方法を試すまであきらめない「泥臭い研究者」だと、自らを評します。アメリカ時代にバーボンウイスキーの味を覚え、今は「行きつけのウイスキーバーでマスターとゆっくり話す時間が、いちばんリセットできる」そうです。

背景映像提供:JAXA / 取材日:2026年6月19日

COLUMN Connect

COLUMN CONNECTは、計算科学の研究者によるリレー形式のコラムです。
研究者になったきっかけ、転機となった出来事、現在の研究内容などを研究者自身に綴っていただきます。

⼤阪⼤学 接合科学研究所
接合プロセス研究部⾨
エネルギー制御学分野
講師

古免こめん 久弥ひさやさん

最初に思い描いた夢を叶えるために

私が研究者を志したきっかけは、高専4年生の進路選択でした。 進学か就職かを決めなければならないとき、「どのような仕事が自分の人生にとって最良だろうか」と考え抜きました。 そして「子どもの頃、最初に将来の夢として思い描いた職業こそ、お金や名誉のためではない、純粋にやりたいことのはずだ。ならばそれを叶えよう」という結論に至りました。 その夢が博士(研究者)だったのです。

そのときは具体的なテーマまで決めていませんでしたが、1年後の研究室配属で宇宙空間でのアーク溶接に興味を持ち、 専攻科修了までの3年間、真空中のアーク溶接現象を研究しました。アーク溶接は、1万℃を超えるアークプラズマの熱で金属を溶かし、再び凝固させることで接合を達成します。 手のひらサイズの部品から橋梁のような大型構造物にまで使われており、私達のものづくりに欠かせない技術です。

その後、もっとアーク溶接の研究がしたいとの思いから大阪大学大学院に進学し、アーク溶接の研究で修士と博士の学位を取得しました。 シミュレーションを始めたのは大学院からです。当時の研究室では誰も手がけていなかった粒子法による溶融池シミュレーションを任され、カルマン渦列を再現する簡単な2次元の計算コードから勉強を始めました。 当初は表面張力すらまともに扱えず、独りで四苦八苦する日々でしたが、修士課程を終える頃には溶融池流れと呼べるシミュレーションができるようになりました。 この頃の苦労は今の研究活動にも活きており、振り返るとしんどかったものの、必要な経験だったと感じています。

博士号取得後は熊本大学で2年間助教を務めた後、大学院生時代を過ごした研究室に教員として戻りました。 現在は忙しくも充実した研究生活を送っています。

実験では測れない物理を可視化できることが、シミュレーションの何よりの魅力です。 その魅力を存分に感じつつ、子どもの頃に思い描いた研究者になれるよう、これからも日々研鑽を続けていきます。

次回は、学生時代、大学は違えど「熱プラズマ」をキーワードとした合同研究会でたくさんお世話になり、現在も交流がある名古屋大学の兒玉直人さんに繋ぎます。