Vol.21

計算科学で高める原子力の安全性

日本大学工学部 情報工学科
准教授

宮村みやむら 倫司ともし さん

研究者紹介

原子力発電所の原子炉建屋は、建屋と主要圧力バウンダリー機器(原子炉圧力容器、格納容器、サプレッションチャンバー、ベント管等)により構成され、複雑な構造をしています。耐震性などの構造健全性を評価するためには、建屋や機器の揺れが相互に複雑に影響しあう現象(連成効果)を考慮することが重要であり、構造物全体の計算をすることが必要です。宮村さんは、細部にわたって正確さを追究する大規模な解析において、計算性能を生かしたシミュレーションに関する研究に継続的に取り組み、安全性の確立に役立てようとしています。

福島第一原子力発電所1号機の耐震解析プロジェクト Fukushima Daiichi Nuclear Power Station Unit 1 Seismic Analysis Project

原子力発電所を安全に稼働させるために耐震設計の重要性は言うまでもありませんが、それが再認識されたのは2007年7月16日に発生したマグニチュード6.8の新潟県中越沖地震でした。震源から約16kmの場所にある東京電力柏崎刈羽原子力発電所では敷地内で震度7に相当する揺れが記録され、地震による被害が発生しました。安全上重要な機器・構造物に損傷はほとんどみられませんでしたが、地震後の安全性の点検や地震対策のためにプラントが長期間停止することになりました。これをきっかけに、このときの観測地震波を用いて、原子炉の地震応答の様子を詳細にシミュレーションで再現するプロジェクトが開始されました。

この解析プロジェクトの結果がまとめられていた頃、2011年3月11日に、マグニチュード9.0の東北地方太平洋沖地震が発生しました。その直後から事故があった東京電力福島第一原子力発電所1号機(以下、1F1)の耐震シミュレーションに関する研究プロジェクトが立ち上がり、宮村さんは当初から主要メンバーとして参加しています。使用する計算機はスーパーコンピュータ「京」からスーパーコンピュータ「富岳」へと移り、高度な解析が続けられています。

入力する地震波は、東北地方太平洋沖地震の際に1F1の地階で観測された東西、南北の並進の加速度時刻歴を基にして作成されました。「2階にあった地震計が故障していて、情報が一部欠落していたのです。そのため、地盤を簡易モデルでシミュレーションをした結果に基づいて、回転成分も含めた入力地震動を作成しました」と宮村さんは説明します。

宮村さんがこの研究に使う解析コードは、宮村さん自身も開発に参加した「ADVENTURE_Solid3FS」です。これは複雑な形状の物体や構造物の力の伝わり方などを正確に解析できる「有限要素法」という解析手法を用いた計算をするためのコードです。このコードは、設計用大規模計算力学システム「ADVENTURE」の中のオープンソース版を「富岳」向けにチューニングしたもので、並列処理に基づく大規模構造解析をターゲットとしています。

有限要素法で精密さを追究 Pursuing Precision with the Finite Element Method

原子力発電所は複雑な形状の構造物が組み合わさっており、その内部にかかる力(応力)や変形をシミュレートするためには、構造物の形状を境界条件とした問題を解く必要があります。地殻内部での地震波の伝播や気象で扱われる大気中の流れなどのように、解析領域の形状が比較的単純となるシミュレーションとは違い、直交する一様な格子(構造格子)では解析モデルを作ることができません。そこで、四面体や六面体等の有限要素により複雑な形状をした領域を分割して解析モデル(メッシュ、あるいは構造格子に対して非構造格子と呼ばれる)を作成します。複雑な形状を正確にモデル化できるため、有限要素法では境界から内部まで細部にわたって信頼性の高い解が得られます。

原子力発電所は複雑な形状の構造物が組み合わさっており、その内部にかかる力(応力)や変形をシミュレートするためには、構造物の形状を境界条件とした問題を解く必要があります。地殻内部での地震波の伝播や気象で扱われる大気中の流れなどのように、解析領域の形状が比較的単純となるシミュレーションとは違い、直交する一様な格子(構造格子)では解析モデルを作ることができません。そこで、四面体や六面体等の有限要素により複雑な形状をした領域を分割して解析モデル(メッシュ、あるいは構造格子に対して非構造格子と呼ばれる)を作成します。複雑な形状を正確にモデル化できるため、有限要素法では境界から内部まで細部にわたって信頼性の高い解が得られます。

モデル化するためにはまず、複雑な形状を表す3DCAD※12次元図面の代わりに使われる、3次元形状モデルを定義するソフトウェア。モデルのデータが必要です。ところが、1F1では紙の図面しか存在せず、そこから改めて手作業で3DCADモデルを作成したために膨大な時間がかかりました図1

定義した形状に対して四面体要素によるメッシュを作る作業は完全に自動でできますが、部品ごとに作成したメッシュをうまく接合するためには手間のかかる作業も必要です図2図3。「精度を高めるためには要素をなるべく小さくして細かく分割するため、データも巨大になり、そのハンドリングも大変でした」と宮村さんは振り返ります。

図1および図2の図中英語の和訳は以下の通り

PCV原子炉格納容器
RPV原子炉圧力容器
Top headトップヘッド
Drywell cylinderドライウェル(円筒部)
Drywell sphereドライウェル(球形部)
Supression chamberサプレッションチャンバー
Top ringトップリング
Reactor shield wall原子炉遮蔽壁
Pedestalペデスタル(台座)
Ring girderリングガーダー
Reactor building原子炉建屋

図1~図3出典:吉村忍、宮村倫司ら、日本原子力学会和文論文誌 第18巻3号(2019年)「3次元有限要素法による2011年東北地方太平洋沖地震本震時の東京電力福島第一原子力発電所1号機の応答解析(第1報:解析手法の開発とモデル構築および解析性能検証)」https://doi.org/10.3327/taesj.J18.001より、日本原子力学会の許可を得て転載。

(a)
(b)

図1福島第一原子力発電所1号機(1F1)のCADモデル

(a)バウンダリー機器の全体像
(b)(a)の内部にある原子炉圧力容器とその断面の拡大図
これらの図は東京電力やメーカーと打ち合わせを行い、原子力の専門家がレビューをした上でリアルに作成された。

(a)
(b)

図2シミュレーションに用いたメッシュの部分拡大図

(a)図1に示した原子炉圧力容器の下部とその付近にある遮蔽壁、格納容器、原子炉建屋のメッシュの断面。圧力容器や格納容器は薄肉構造物であり、建屋の厚さはこれらに比べてかなり厚い。扁平な構造物の解析精度を確保するためには容器の厚さ方向に4層ほどの分割が必要になる。そのため圧力容器や格納容器は建屋よりも細かいメッシュで分割する。
(b)図1に示したサプレッションチャンバーを支える部分のメッシュ。支柱やそれに斜めに接続しているブレースと呼ばれる補強材、その取り付け部のピン等も四面体要素により細かく要素分割している。

図3原子炉格納容器と建屋の接合部のメッシュの拡大図

(a)自動で作成したメッシュ
(b)手作業で調整したメッシュ
精度よく計算するために、原子炉格納容器は細かいメッシュに区切る必要がある。一方で、建屋は比較的粗いメッシュになっている。粗いメッシュと細かいメッシュの接合部分では、力をうまく伝えるために四面体の頂点同士がつながるように両者の接合部分だけは細かく分割するという手間が必要になる。

図3原子炉格納容器と建屋の接合部のメッシュの拡大図

(a)自動で作成したメッシュ
(b)手作業で調整したメッシュ
精度よく計算するために、原子炉格納容器は細かいメッシュに区切る必要がある。一方で、建屋は比較的粗いメッシュになっている。粗いメッシュと細かいメッシュの接合部分では、力をうまく伝えるために四面体の頂点同士がつながるように両者の接合部分だけは細かく分割するという手間が必要になる。

「富岳」の計算性能を引き出す「ADVENTURE_Solid3FS」の開発 Development of ADVENTURE_Solid3FS to Maximize Fugaku's Computational Performance

ADVENTUREシステムは大規模な計算機でさまざまなシミュレーションをするための「設計用大規模計算力学システム」として開発されてきました。有限要素法に基づく構造解析を行うADVENTURE_Solidはその中のモジュールの1つです。1997年に日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業の1つ「ADVENTUREプロジェクト」※2「ADVENTUREプロジェクト」https://adventure.sys.t.u-tokyo.ac.jp/jp/として始まり、このプロジェクト終了後にもさまざまなプロジェクトを通して開発が継続されてきました。多くの大学や企業の研究者がその開発に携わっています。宮村さんは当初からの中心的な開発メンバーの1人です。

ADVENTURE_Solidにおいて計算コストが高くなるのは、各時間ステップでメッシュの頂点数の3倍の未知数を持つ連立一次方程式を何回も解く必要があるからです。1F1の1次要素モデルでは約2億元、2次要素モデル※31次要素モデルは四面体で区切った頂点に節点を持つ。2次要素モデルは辺の中間にも節点を持つため、変形を1次要素よりも正確に表せるが、計算量は増える。では約15億元の連立一次方程式を反復解法※4大規模な連立一次方程式を解くための手法。適当な初期値を出発点として解に近付くように反復的な計算を行う。ここでは反復解法として前処理付き共役勾配法という方法を用いている。一方で、後述の非線形解析ではNewton-Raphson法と呼ばれる反復解法を用いている。その反復の中では線形解析と同じ次元の連立一次方程式を何回も解く必要がある。すなわち、Newton-Raphson法と共役勾配法の二重の反復となるため計算量は線形解析の何倍にもなる。と呼ばれる手法で解いています。1F1の圧力容器のような薄肉構造物では、反復解法の収束性(何回反復すると誤差が小さくなるまで収束するか)が悪くなるため、ADVENTURE_Solidでは収束性を良くするための強力な前処理手法を実装しています。

この計算においてプロセッサ数の多い大規模な並列計算機の性能を十分に生かすためには、並列計算機の能力に合わせて計算をどのように分割してどのプロセッサに割り当てて効率よく並列計算させるかが重要です。「気象のシミュレーションなどの場合、解析領域の形状は単純なので、さいの目状の『構造格子』でモデル化ができ、並列計算機のパフォーマンスを出しやすいのです。しかし、有限要素法の場合は、四面体や六面体などの『非構造格子』を使うので、高いパフォーマンスを出すのが難しくなります。さらに、連立一次方程式の反復解法に対する前処理手法は、効果的な手法であるほど並列計算が難しくなります。ADVENTURE_Solidでは、複雑な形状をした解析対象であっても、高い並列パフォーマンスと反復解法の良好な収束性を両立できるように、さまざまな工夫をしています」と宮村さん。その結果、ADVENTURE_SolidはPCクラスタ※5複数の一般的なパーソナルコンピュータ(PC)をネットワークで接続し、1台の並列コンピュータのように動作させるシステム。をはじめとして、地球シミュレータ(JAMSTEC)、「京」、「富岳」等の並列計算機に実装され、各所で活用されてきました。ADVENTUREシステムをベースに商用向けに開発されたソフトウェアもあり、自動車、エレクトロニクス、エネルギー、精密機器など、さまざまな業種で使われ、極めて優れていると評価されています。

「富岳」での解析においては、従来のADVENTURE_Solidをさらに「富岳」向けにチューニングした「ADVENTURE_Solid3FS」の開発が必要でした。というのも、「富岳」は多くの計算ノード、計算コアを使えるようになったため、それまでの計算の分割の仕方では計算コアを効率よく使いきれなかったのです。そこで、宮村さんは反復解法の前処理部分も含めて、分割した計算をどのように計算コアに割り振るか見直し、新たなアルゴリズムを開発しました。「『ADVENTURE_Solid3FS』は、非構造格子を扱うシミュレーションコードとしては高い計算性能を引き出すことができました。そのうえ、どのような解析対象であっても連立一次方程式の反復解法が非常に速く収束するのです。その結果『ADVENTURE_Solid3FS』は他に類をみない圧倒的な速さを誇るコードとなりました。しかも、さまざまな対象をシミュレートできる多彩な機能を持っています」と宮村さんは胸を張ります。

また、データの出力方法にも改良を重ねています。1F1の解析では時間ステップが6500(65秒間分)にもなり、各時間ステップの計算結果も多いため、全ての計算結果を出力し保存することは困難でした。そこで、計算結果の可視化までも「富岳」で行うオフライン可視化技術※6LexADV_WOVis https://adventure.sys.t.u-tokyo.ac.jp/lexadv/WOVis.htmlこのコードに、1F1の解析向けの機能を追加して使用した。を用いて、各時間ステップにおいて複数の高精細画像を生成した後、データは削除するという工夫もしました。

「富岳」により非線形性解析を実現 Nonlinear Analysis Realized by Fugaku

1F1のシミュレーションを始めた当初は、2012年から稼働を開始した「京」を活用して、材料を弾性体として、コンクリートのひび割れなどが起こらないことを前提とする線形解析を行いました。そして、そのシミュレーション結果に基づいて690点もの地点における床応答スペクトルを計算することができました。床応答スペクトルとは、地震の加速度に対して構造物がどの振動数に反応するかを示すもので、揺れやすさの特性がわかります。

「京」による線形解析の結果を踏まえ、「富岳」ではコンクリートの塑性変形やひび割れを考慮した非線形解析を実施しました。塑性変形とは変形させた力がかからなくなっても元に戻らない変形です。たとえば、つぶれた配管や割れたコンクリートは元に戻りません。これを材料のもつ非線形特性といいます。線形解析では1つの時間ステップの中で大きな連立一次方程式を1回解くだけでよいのですが、非線形性解析では何回も解かなければならないために計算量が何倍にも増えてしまいます。そのため「京」では線形解析はできたのですが非線形解析は非常に短い時間(少ない時間ステップ数)の計算しかできませんでした。しかし、「富岳」ならば計算可能です。「富岳」の計算力を活かしてより現実に近いシミュレーションができるようになりました図4図5動画1

(a)
(b)

図4コンクリート損壊の状況

(a)引張クラックのみのモデルでのシミュレーション結果
(b)引張クラックモデルと弾塑性損傷モデルの両方を考慮したモデルでのシミュレーション結果
赤い部分はひび割れが発生した箇所。ここでは、実際の東北地方太平洋沖地震の1.2倍の振幅の地震動を入力して解析している。

図4の赤い部分ではコンクリートにひび割れが発生しています。(a)は引っ張ると割れるひび割れ(引張クラックモデル)のみ考慮に入れた解析結果で、(b)は塑性変形やそれに伴う破壊も弾塑性損傷モデルにより考慮しています。図5は揺れによる原子炉圧力容器上部の変位(元の位置からの移動量)です。青い線は引張クラックモデルのみ、赤い線は弾塑性損傷モデルも考慮したものであり、材料モデルの非線形性により両者で応答が異なっていることがわかりました。解析モデル全体の相当応力の分布もシミュレートできました 動画1。赤い所に大きな力がかかっているとわかったので、今後、ひび割れ発生領域との関連性を分析する予定です。また、現状では約4.5秒分の計算しかできていないため、さらに長い時間の計算をする予定です。

図5原子炉圧力容器上部の変位

横軸は時間、縦軸は変位(元の位置からの移動距離)。ここでは、実際の東北地方太平洋沖地震の1.2倍の振幅の地震動を入力して解析している。

動画1原子炉建屋の解析モデル全体の相当応力分布

相当応力の分布の変化。1.5秒間分(図5における3~4.5秒)を6倍の時間に引き延ばし9秒間で示している。(ここでは、実際の東北地方太平洋沖地震の1.2倍の振幅の地震動を入力して解析している。また、目で見てわかるように、変形を100倍にして表示している。)

図4・図5・動画1出典:宮村倫司ら、日本機械学会第38回計算力学講演会講演論文集[No.25-50](2025年)「「富岳」による原子力発電所の3次元高精細有限要素モデルを用いた非線形地震応答解析」より、日本機械学会の許可を得て転載。

今後の課題はシミュレーションのさらなる高精度化と原子炉内の機器や配管の応答解析 Future Challenges Include Enhancing the Accuracy of Simulations and Analyzing the Response of Reactor Equipment and Piping

今回、「富岳」によりひび割れのような強い非線形性を伴う現象を考慮したシミュレーションが可能であることがわかりました。しかし、地盤の考慮、コンクリート等の材料モデルの高精度化、炉内の水のモデル化なども必要ですし、さまざまな入力地震動に対するシミュレーションも必要です。建屋のコンクリート部分のひび割れは放射能の遮蔽性を考える上でも重要です。また、解析対象を1F1から、他の原子力発電所にも広げていく必要があります。「現在、新型の小型モジュール型原子力発電所のメッシュを作成中で、プロトタイプは既に完成しています」と宮村さんは説明します。

一方、原子力発電所は躯体の上にいろいろな機器が取り付けられていたり、配管があったりします。地震の際にこれらの機器が壊れることは大きなリスクになるので、今後は、今回の結果をこれらのシミュレーションに活かすことが必要だと宮村さんは考えています。

「今回、ひび割れを考慮した非線形性解析を実施して、圧力容器の揺れが変わることが確認できました。この結果を反映した床応答スペクトルにより、原子炉内部の制御棒等の機器や配管の揺れの状態をより現実的に評価できるようになるはずです」。

解析手法として今回のモデルに機器を組み込む方法もありますが、機器は本体に比べてずっと軽いため、これによって本体の揺れの性質が変わることはありません。それぞれ個別に解析をするのでもよいと考えられます。

「さまざまなシミュレーションを試みることで、私たちは隠れたリスクに気付くことができ、想定を超える事象が起こることを、減らしていくことができると思います」という宮村さんは、これからも継続して原子力発電所の安全性の向上を目指したシミュレーションの研究を行うことが重要だと強調します。

宮村研究室のラボメンバー

2次元図面の代わりに使われる、3次元形状モデルを定義するソフトウェア。 本文

「ADVENTUREプロジェクト」https://adventure.sys.t.u-tokyo.ac.jp/jp/ 本文

1次要素モデルは四面体で区切った頂点に節点を持つ。2次要素モデルは辺の中間にも節点を持つため、変形を1次要素よりも正確に表せるが、計算量は増える。 本文

大規模な連立一次方程式を解くための手法。適当な初期値を出発点として解に近付くように反復的な計算を行う。ここでは反復解法として前処理付き共役勾配法という方法を用いている。一方で、後述の非線形解析ではNewton-Raphson法と呼ばれる反復解法を用いている。その反復の中では線形解析と同じ次元の連立一次方程式を何回も解く必要がある。すなわち、Newton-Raphson法と共役勾配法の二重の反復となるため計算量は線形解析の何倍にもなる。 本文

複数の一般的なパーソナルコンピュータ(PC)をネットワークで接続し、1台の並列コンピュータのように動作させるシステム。 本文

LexADV_WOVis https://adventure.sys.t.u-tokyo.ac.jp/lexadv/WOVis.htmlこのコードに、1F1の解析向けの機能を追加して使用した。 本文

研究課題名: 「富岳」を用いた原子力発電所のフルスケール3次元FEMモデルによるマルチパーパスシミュレーション(hp230061)
非定常非線形フルスケール3次元FEMシミュレーションによる原子力発電所の耐震および構造健全性評価(hp240138)
課題代表者:日本大学 宮村 倫司

研究者紹介

日本大学工学部情報工学科 准教授 宮村 倫司 さん

宮村さんは、約30年前の「ADVENTUREプロジェクト」立上げの時から、大規模並列非線形解析の研究に携わってきました。
2011年3月11日に起きた東北地方太平洋沖地震により、東京電力福島第一原子力発電所が被災して事故を起こしたことは、忘れられない出来事だと言います。「原子力耐震、地震・津波に関する「京」のプロジェクトに参加したばかりの時に福島で事故が起きて衝撃を受けました」。専門である計算力学とハイパフォーマンスコンピューティングを活用した原子力発電所の耐震解析の研究で、社会に貢献したいという思いを新たにしたそうです。研究室の学生たちとも、震災直後から多くの時間をかけて、そのような研究について語り合ってきました。
これからも、大学のキャンパスのある福島県郡山市に心を寄せながら教育・研究をしていきたいと宮村さんは思っているのだそうです。

取材日:2025年9月19日

COLUMN Connect

COLUMN CONNECTは、計算科学の研究者によるリレー形式のコラムです。
研究者になったきっかけ、転機となった出来事、現在の研究内容などを研究者自身に綴っていただきます。

東北大学大学院工学研究科
機械機能創成専攻
助教

杉本すぎもと まことさん

葛藤と決意の1週間

私はもともと、研究者になろうなどとは微塵も考えていませんでした。博士後期課程とはごく一部の物好きが行くところで、自分も他の多くの学生と同じように、修士を出たらどこか民間企業にでも就職するのだろうと思っていました。そんな中、学部4年次の研究室配属の時期が近づいてきました。やりたいことが特になかった私は、研究室選びで失敗したくない一心で、学科のほぼ全ての研究室を見学しました。しかし決め手を見つけられず、結局、「先生の授業がわかりやすかったこと」と「見学の際に先輩たちの雰囲気が良かったこと」という実に単純な二つの理由で配属先を決めました。我ながら高尚さのかけらもない選び方だったと思います。

配属先は伝熱工学の研究室で、配属後すぐに先輩方による研究紹介がありました。その中で、M2の先輩が紹介してくれた一つのシミュレーション動画に強く惹かれました。それは液滴が変形しながら複雑な多孔体内部へと浸み込んでいく様子を再現したもので、当時としても空間解像度は低く、気液混相流と呼べるほどの密度差もないものでしたが、パソコンのモニター上でぷよぷよと動く液滴の姿に心を奪われたのです。私はこの研究を引き継ぐことを決めました。

もちろん研究は試行錯誤の連続で、時には液滴が突如爆散したり、水滴が触れた瞬間に多孔体の表面から大量の水が湧き出したりと、困難にも直面しました。それでも約1年半をかけて、ようやく自分なりに納得のいくシミュレーションができるようになりました。

ちょうどその頃、指導教員の先生から「博士後期課程に進学する意志はあるか」と尋ねられました。これが私にとって最大の転機でした。研究が楽しかったこともあり興味はありましたが、研究者としてやっていく自信は持てずにいました。「いつまでに決めればよいですか」と尋ねたところ、先生の答えは「1週間以内」。ちょっと高価な買い物をするときでももう少し考えるものです。たった1週間で人生の進路を決めなければならないのかと愕然としましたが、研究への未練を断ち切れず、家族や同期の後押しもあって進学を決意しました。

こうして行き当たりばったりで歩んできた研究者の道ですが、幸いにも多くの人との縁に恵まれ、現在は東北大学で充実した研究生活を送っています。あのとき1週間で下した決断が間違いではなかったと胸を張って言えるように、これからも努力を重ねていきたいと思います。

次回は、私の上司の前職での指導学生で、研究者の先輩としてお世話になっている大阪大学接合科学研究所の古免久弥さんに繋ぎます。