Vol.20

「地上の太陽」の実現に貢献する
核燃焼プラズマのシミュレーション

核融合科学研究所 研究部
複合大域シミュレーションユニット
教授

藤堂とうどう やすし さん

研究者紹介

エネルギー需要が増え続ける中、太陽と同様の核融合反応を地上で起こしてエネルギーを得るための装置である核融合炉の研究開発がさかんになっています。しかし、核融合炉の実現には多くの課題があります。なかでも本質的な課題は、核融合反応中のプラズマの中で、反応の維持を妨げるさまざまな現象が起こることです。藤堂さんは、こうした現象が起こるメカニズムをシミュレーションで解明することにより、核融合炉の実現に貢献しています。

利点は多いが実現は難しい核融合 Fusion Offers Many Advantages, but Realization is Difficult

太陽の中では、4個の水素(H)原子核から1個のヘリウム(He)原子核ができる核融合反応により、莫大なエネルギーが生み出されています。一方、現在、研究されている核融合炉のほとんどは、重水素(D)と三重水素(T)の原子核が融合してHe原子核と中性子に変わるDT核融合反応図1を利用するものです。この反応は太陽の中の反応より起こりやすいからです。反応で発生する大量のエネルギーを発電などに利用することが想定されています。

核融合の「燃料」となるDは海水から得られ、Tも海水中などにあるリチウム(Li)の変換で得られるので、枯渇する心配はほとんどありません。また、核融合反応でCO2が発生することはないので、環境負荷の小さいエネルギー源になると考えられています。

図1核融合炉で使われる反応(DT核融合反応)

核融合では、反応前よりも反応後の質量が小さくなり、減った分の質量がエネルギーに変わることで大量のエネルギーが放出される。この反応では、合わせて1gのDとTから、石油約8トンを燃焼させたときに相当するエネルギーが得られる。核融合科学研究所提供図版を改変。

ただし、核融合反応を起こすには、DとTを非常に高温のプラズマ ※1物質の温度を上げていくと固体、液体、気体と変化するが、さらに温度を上げると原子(または分子)から電子が離れてイオンとなり、そのイオンと電子が飛び回る状態になる。この状態をプラズマという。DやTは電子を1個しかもっていないので、電子がとれたイオンは原子核である。 にして、原子核どうしを高速で衝突させなければなりません。さらに、そのプラズマを一定の領域に閉じ込め、高い密度を長時間にわたって保たなければなりません。これまでに、外部からの加熱により核融合反応を起こすことは達成されています。しかし、核融合をエネルギー源として利用する際には、反応開始後は外部から加熱せず核融合で発生する熱だけで反応が続くことが必要です。そのようなプラズマを「核燃焼プラズマ」と呼び、実現のためには、プラズマの温度を数億℃、プラズマ中心部のイオンの「密度×閉じ込め時間」を1020個/m3・秒以上にする必要があると計算されています。

このゴールを目指して世界各国でさまざまな方式の核融合炉が研究されている中、核燃焼プラズマを最初に実現すると目されているのが、日、欧、米、露、韓、中、印の7極が協力してフランス南東部に建設中のITERイーターです。ITERは、磁場でプラズマを閉じ込める方式の一種であるトカマク型図2の核融合炉です。

図2トカマク型の核融合炉の基本構造

この図では省略されているが、プラズマは、ここに示したプラズマより一回り大きい真空容器中でつくられ、真空容器の周りに3種類の超伝導磁石(コイル)が設置されている。中心ソレノイドコイルによってプラズマ中に電流を流し、その電流がつくる磁場とトロイダルコイルの磁場によって、プラズマをドーナツ状に閉じ込める。ポロイダルコイルはプラズマの位置や形の調整に使われる。ITERでは、プラズマのドーナツの高さは約7m、外径は約16m、体積は約800m3だが、プラズマ全体の質量は約1gしかない。核融合科学研究所提供図版を改変。

注目粒子とそれ以外を別々に扱うことで精密なシミュレーションを可能に Separating Particles of Interest from Others Enhances the Precision of Simulations

「私は2012年に、スーパーコンピュータ「京」を使い、ITERのプラズマにおいてアルファ粒子(ヘリウム原子核)が引き起こす現象の現実的なシミュレーションを世界で初めて行いました。以来、「京」やスーパーコンピュータ「富岳」を使って、研究を発展させてきました」と藤堂さんは振り返ります。そして、その意義について、「磁場で閉じ込めたプラズマの中ではさまざまな現象が起こり、その中には核燃焼プラズマの維持を妨げるものもあります。こうした現象は実験によっても研究されていますが、詳しいメカニズムはシミュレーションを行うことで初めて解明でき、その現象への対策も考えられるようになるのです」と説明します。

核燃焼プラズマの維持を妨げる現象としては、第一に微視的な電磁場の乱れによる閉じ込めの劣化が、第二に突発的なプラズマの崩壊があります。また、プラズマの加熱のためには、核融合反応で生じる高エネルギーのアルファ粒子が重要な働きをするのですが、この粒子がプラズマの波動と相互作用してプラズマの中心部から逃げてしまうという第三の現象もあります。藤堂さんは、第二と第三の現象を対象として、共同研究者と共にシミュレーションを行ってきました。そのシミュレーションに使用しているのは、1995年から独自に開発してきた「MEGA」というコードです。

従来、プラズマのシミュレーションは、流体の方程式と電磁場の方程式を組み合わせた電磁流体力学(MagnetoHydroDynamics : MHD)に基づいて行われてきました。この手法では、プラズマを電気伝導性をもつ流体と見なし、その流体がMHDの方程式に従うとして、プラズマが時間経過とともに変化する様子(時間発展)を計算します。MHDシミュレーションは多くの成果をあげてきたのですが、粒子であるプラズマを流体として扱うことにより、実際の物理現象からのずれが大きくなる場合があります。これに対し、プラズマ粒子(イオンや電子)をすべて粒子法で計算する手法もありますが、計算量が膨大になるため、小さい空間で短い時間のシミュレーションしかできません。

そこで藤堂さんは、少ない計算量でより精密なシミュレーションを行うため、プラズマ粒子のうちで注目する粒子だけを粒子法で扱い、残りの粒子と電磁場をMHDで扱う「運動論的MHDハイブリッドシミュレーション」を開発してきました。そのためのコードがMEGAなのです。

問題となる現象の深刻度が明らかに The Seriousness of the Problematic Phenomenon Has Become Clear

藤堂さんが長年にわたって注目してきたのは、核燃焼プラズマの維持を妨げる第三の現象です。この現象はかなり複雑で、アルヴェン固有モードと呼ばれるプラズマの波がアルファ粒子によって励起されることで不安定化し、それが今度はアルファ粒子の分布変化を引き起こすというものです。この現象の詳細も、アルファ粒子の分布変化のメカニズムも解明されていませんでした。

藤堂さんは、2012年に「京」を使ってこの複雑な現象をシミュレーションしました動画1。これにより、さまざまな波長のアルヴェン固有モードが消長する様子が明らかになり、プラズマ中心部におけるアルファ粒子の圧力 ※2プラズマにおいては、粒子の個数だけでなくエネルギーも重要である。このため、粒子の分布は密度だけでなく温度や圧力で表す。粒子の速度分布が方向に依らない場合には、圧力は一定空間において、粒子のエネルギーの総和に2/3を乗じたものである。 はアルヴェン固有モードとの相互作用によって6%減ると予測されました。「それまでの研究ではアルヴェン固有モードの波長領域が十分に確保されておらず、アルファ粒子がもっと大きく減ることも懸念されていたのですが、私たちのシミュレーションにより、それほど深刻ではないと分かりました」。「京」を使うことで、MEGAによるITERの実サイズのシミュレーションを実行でき、核燃焼プラズマの実現に貢献する重要な成果が得られたのです。

(a)
(b)

動画1ITERにおけるアルヴェン固有モードと高エネルギーアルファ粒子の相互作用のシミュレーション

ITERでは、磁場によって閉じ込められたプラズマはドーナツ状になっている。 磁場はドーナツ内に緩いらせん状の磁力線をつくり、イオンや電子はこの磁力線に沿って運動するが、その際、電荷の粗密で生じる電場を打ち消すように動くため、電荷の粗密が磁力線に沿って伝わる波が生まれる。 これをアルヴェン波という(緑のドーナツの中で理髪店のサインのように動くカラフルな線がそれにあたる)。 この波は、楽器の弦と同様にいくつかの決まった波長で固有振動する。これらをアルヴェン固有モードという。この動画では、黄色、赤、青の線が、アルファ粒子によって励起されたさまざまな波長のアルヴェン固有モードを表している。 アルヴェン波は、ドーナツの大きな円周方向にも、ドーナツの断面の円の円周方向にも伝わるが、アルファ粒子によって不安定になる(初期は比較的整っている色の分布(a)が、時間が経つと(b)のように乱れる)。 その結果、アルファ粒子がプラズマの中心(ドーナツの断面の円の中心)から外に運ばれてしまう。
Material from Prof. Todo, Yasushi TODO and Andreas BIERWAGE, Plasma Fusion Res. 9, 3403068 (2014), with permission from JSPF.

粒子数を増やすことで現象を詳細に描き出す Increasing the Number of Particles Allows for a Detailed Depiction of the Phenomenon

MEGAによるシミュレーションでは、ドーナツ状のプラズマを格子で区切り、注目する粒子種の粒子を各格子点に置いてその位置と速度の変化を粒子法で計算します。一方、残りの粒子種を含めた電磁場の変化は格子ごとにMHDで計算します。ただし、粒子は荷電しているので、その運動は電磁場の影響を受け、逆に、粒子の運動は電磁場を変化させます。そのため、短い時間ステップで粒子の計算と電磁場の計算をそれぞれ行い、計算結果を交換して相手の次のステップの計算に反映させることを繰り返して、両者のハイブリッドを実現しています。

藤堂さんは、「京」でのシミュレーションでは、高エネルギーアルファ粒子と、プラズマを加熱するために外から打ち込むDのイオンを粒子法で扱いましたが、最近の「富岳」の課題では、「燃料」であるDとTのイオンも粒子法で扱えるようにしました ※3加熱のために打ち込むDイオンと、燃料のDイオンはエネルギー(速度)が大きく異なる。このため、別種のプラズマ粒子としてシミュレーションに採り入れる。 。より現実に近いシミュレーションを行うため、モデルを発展させたのです。また、格子点に置く粒子の数も「京」のときは1つの粒子種につき1個でしたが、「富岳」では8個または64個に増やしました ※4ここでいう粒子は、実際のプラズマ粒子1個ではなく、膨大な個数のプラズマ粒子を1個の粒子と見なしたものである。格子点に置く粒子数を増やすことは、1個の粒子で代表させるプラズマ粒子の数が減ることにあたり、よりきめ細かいシミュレーションが可能になる。

「「富岳」でのシミュレーションでも、アルファ粒子の分布変化は「京」のときと同様で、プラズマ中心部からのアルファ粒子の流出はあまり多くないことがより確実になりました。さらに、粒子数を大幅に増やしたことで、アルヴェン固有モードとアルファ粒子との相互作用(動画1参照)の際にアルファ粒子の分布が変化していく過程を、詳しく解明することができました」。

このシミュレーションでは、位相空間におけるアルファ粒子の分布の時間発展を解析しました。位相空間とは、粒子の位置と速度を同時に表すための仮想的な空間で、実際の空間(3次元)に速度の空間(3次元)を加えた6次元の空間ですが、今回の解析結果は2次元平面で示すことができます図3。この解析結果は、アルファ粒子の分布変化を詳細に描き出しており、アルヴェン固有モードとアルファ粒子の相互作用の理解を深めるのに役立つと期待されます。

図3位相空間におけるアルファ粒子の分布解析

実際の位相空間は6次元だが、結果は2次元で表せる。上段の図は、アルファ粒子の運動エネルギーを縦軸、ドーナツの円周方向の運動量を横軸にとることで、アルファ粒子の分布が変化する様子を2次元平面に表したもの。図の右端がドーナツ状のプラズマの断面の中心で、左側が周辺にあたる。マゼンタの線はアルファ粒子とアルヴェン固有モードの共鳴条件を表し、赤はアルファ粒子が増える領域、青は減る領域を示す。初期段階(t=0.484ms)では、マゼンタの線の両側に赤と青が対となった縞模様が現れているが、時間が経ち、個々のアルヴェン固有振動の振幅が増すにつれて縞は太くなり、重なり合って、ついには一対の赤と青の太い帯となる。
下段の図では、代表的なアルヴェン固有モードとの相互作用で保存する物理量が一定(上段の図中の青い線)のアルファ粒子の数をピンクで示している。黒点線はシミュレーション開始時(t=0)の分布である。初期段階ではアルファ粒子は中心部(図の右端)に多く、周辺に行くほど少ないが、次第に中心部のアルファ粒子が減り、周辺では増える。つまり、中心部から周辺へのアルファ粒子の輸送が起こっている。
Y. Todo et al., Nuclear Fusion 65, 102003 (2025). https://doi.org/10.1088/1741-4326/ae059f.
Copyright 2025 Y. Todo et al., under the terms of the Creative Commons CC BY license.

核融合反応の進行をシミュレーションしたい Simulating the Progress of Nuclear Fusion Reactions

「突発的なプラズマの崩壊」という第二の現象についての成果も、簡単にご紹介しましょう。この現象について藤堂さんは、「核燃焼プラズマを維持するには、プラズマ中心部に粒子を集め、高温・高密度にしなければなりませんが、それには限界があり、粒子の圧力がある程度高くなると、プラズマのゆらぎが急激に発展して、プラズマが壊れてしまうことがあるのです」と説明します。

しかし、MHDシミュレーションでは、崩壊が起こる圧力をうまく予測することができていませんでした。核融合科学研究所には、磁場閉じ込め方式の一種であるヘリカル型の大型実験装置図4があり、プラズマの挙動を明らかにする上で重要な実験が数多く行われてきました。その中で、2000年代前半に行われた高圧力プラズマ実験では、プラズマの崩壊が起こらない結果が得られていましたが、MHDシミュレーションではプラズマの崩壊が予測され、実験とMHDシミュレーションのあいだに大きな食い違いが見られていたのです。

図4核融合科学研究所の大型ヘリカル装置

赤丸で囲んだところが装置の本体。トカマク型とは異なり、2種類の超伝導コイルでらせん状の磁場をつくり、プラズマを閉じ込める。この装置はDT核融合を起こすためのものではないが、HやDの高温、高密度のプラズマをつくってさまざまな実験をすることができる。1998年に運用が開始されて以降、国内の大学の研究者を中心にこれまでに20万件近い実験が行われてきた。2025年12月に運用が停止される予定である。英語名(Large Helical Device)を略してLHDと呼ばれる。核融合科学研究所提供図版を改変。

そこで2019年に、藤堂さんは共同研究者の佐藤雅彦さん(核融合科学研究所 准教授)とともに、「京」をはじめとするスーパーコンピュータを使い、MEGAコードによりこの実験を再現してみました。すると、MHDシミュレーションの予測よりずっと高い圧力まで、プラズマは安定に保たれるという結果が得られ、実験結果とよく一致しました。「圧力の限界を正確に予測できたことはたいへん重要です。圧力限界は、核融合炉の運転条件を決める際の指針の1つとなるからです」と、藤堂さんはこの成果の意義を強調します。

さらに最近、藤堂さんたちは「富岳」を使って、量子科学技術研究開発機構のトカマク型大型実験装置を想定したシミュレーションを行い、MEGAコードが圧力限界を高精度に評価できることを明らかにしています。この成果は、同じトカマク型のITERの研究開発にも生かされることでしょう。

ここでご紹介したほかにも、MEGAを使って数多くの成果を挙げてきた藤堂さん。今後はどんなシミュレーションに取り組もうと考えているのでしょうか。「これまでのシミュレーションは、粒子種ごとの粒子数が変化しない『定常状態』を対象としてきました。しかし実際には、プラズマ中心部では核融合反応でアルファ粒子が次々につくられ、アルヴェン固有モードとの相互作用で減った分布が元に戻るはずです。このような過程をシミュレーションで明らかにできたらと考えています」。そのためには、粒子数の変化も取り入れたモデルをつくり、シミュレーション時間も長くしなければなりませんが、これまで着実にMEGAを進化させてきた藤堂さんなら、すぐに実行できることでしょう。

物質の温度を上げていくと固体、液体、気体と変化するが、さらに温度を上げると原子(または分子)から電子が離れてイオンとなり、そのイオンと電子が飛び回る状態になる。この状態をプラズマという。DやTは電子を1個しかもっていないので、電子がとれたイオンは原子核である。 本文

プラズマにおいては、粒子の個数だけでなくエネルギーも重要である。このため、粒子の分布は密度だけでなく温度や圧力で表す。粒子の速度分布が方向に依らない場合には、圧力は一定空間において、粒子のエネルギーの総和に2/3を乗じたものである。 本文

加熱のために打ち込むDイオンと、燃料のDイオンはエネルギー(速度)が大きく異なる。このため、別種のプラズマ粒子としてシミュレーションに採り入れる。 本文

ここでいう粒子は、実際のプラズマ粒子1個ではなく、膨大な個数のプラズマ粒子を1個の粒子と見なしたものである。格子点に置く粒子数を増やすことは、1個の粒子で代表させるプラズマ粒子の数が減ることにあたり、よりきめ細かいシミュレーションが可能になる。 本文

研究課題名:磁場閉じ込め核融合プラズマにおける大域的高エネルギー粒子輸送と電磁流体力学不安定性に対する熱イオンの運動論的効果(hp230113)
磁場閉じ込め核融合プラズマの圧力限界に対するミクロ集団ダイナミクスの効果(hp240163)
課題代表者:核融合科学研究所 藤堂 泰

研究者紹介

核融合科学研究所 研究部 複合大域シミュレーションユニット 教授 藤堂 泰 さん

藤堂さんは高校生のころにカール・セーガンの著書『コスモス』を読み、天文学者になりたいと思ったそうです。大学院では天体のジェットのMHDシミュレーションをしていましたが、大学院修了時に現在の研究所に就職したことで核融合の道に進みました。長く続けるつもりはなかったそうですが、ハイブリッドシミュレーションという手法を開発する過程や、それによってさまざまな物理現象を解明できることにおもしろさを感じ、現在に至っています。趣味はテニス。15年ほど前にお子さんの付き添いで通い始めたテニススクールで手ほどきを受け、現在も続けています。コートではプレーに集中し、頭の中を空っぽにするそうです。

取材日:2025年8月1日

COLUMN Connect

COLUMN CONNECTは、計算科学の研究者によるリレー形式のコラムです。
研究者になったきっかけ、転機となった出来事、現在の研究内容などを研究者自身に綴っていただきます。

東北大学大学院工学研究科
機械機能創成専攻
助教

楠戸くすど 宏城ひろきさん

探求の悦び

幼いころから探求することに悦びを覚えて、そのまま大人になってしまいました。

小学生の頃は、とりあえず何かを分解したり、日常的に自由研究に取り組む子どもでした。自由学習ノートというものがあり、普通の子は漢字を書いて埋めたりするのですが、僕はいつも機械の仕組みを調べたり自由研究を行って提出していました。ひどいときは金属探知機を自作して学校に持ち込んだこともあります笑。今となれば、担任の先生方は毎回チェックが大変だったと思いますが、小学4年生の時の担任の先生がかなり機械や科学に詳しく、いつも何かしらコメントをくださって、僕の知的好奇心は大いに掻き立てられました。

そしてそのまま大きくなった楠戸少年は「なんか機械作りてえなぁ」と思い、大学進学時に安直に機械系を選ぶことになります。機械系は名前から受けるイメージとは異なり、さまざまな「モノ」がどのように動くのかという機械工学を学ぶ場、すなわち、モノづくりというよりかはその根底を支える理論を学ぶ場でした。ちなみに機械系は工学部の中でも特に授業・レポートが多く、毎日のように友人たちと図書館でレポートにいそしんだのが良い思い出です。

そして研究室選びでは特に興味を持った流体力学を軸とするのですが、実は決め手は、指導教員の授業から受けた印象で、丁寧な導出と物理に対する誠実さに惹かれて希望し配属されました。研究内容としては、分子間相互作用力を計算し、ニュートンの運動方程式 ma=F に従って分子の動きをシミュレーションする分子動力学法を用いた解析です。分子一つ一つの振る舞いが協調することで表面張力といったマクロな物性値や流体の動きを決定している点にロマンを感じて、もっと突き詰めたいと思ったら最後、そのまま博士後期課程に進学し、現職に至ります。年に数回「世界の最先端を走っている」という実感を覚える瞬間があり、その悦びは非常に大きいです。次世代に悦びを覚えてもらい、焚きつけられるような研究者人生を歩みたいと思っています。

次は、現職で同じ専攻で助教仲間の杉本 真さんにCONNECTしたいと思います。